Customer Relationship Management (CRM) とは、顧客との関係を管理していくツールです。顧客とのやり取りを全て記録していき、その顧客を360度あらゆる角度から捉えていく。それにより、誰でも最適なタイミングで顧客と連絡を取っていく事が可能になります。
CRMは経営者によって導入されることが多いです。社長は、CRMを自社に導入したいので、トップダウンで導入します。今までの顧客管理は名刺管理やExcelでの日報が中心であることが多いのではないでしょうか。こうしたやり方を一新して、CRMで新たな価値が出せると信じています。これ自体は問題ないです。
次に、社長の意をくんで、導入を実行していく段階になります。IT担当者や営業部門の責任者やキーマンがCRM導入に向けて、プロジェクトを実行していく段階です。ここで少し問題が起きる事があります。
導入そのものが目的化する事があるのです。プロジェクトを実行している側からすると、とにかくCRMを導入しなければならない。当たり前だが、導入して初めて効果を発揮するわけなので。
一方で、CRMを利用するのは、現場の社員です。具体的には顧客と接点のある社員なので、営業部門やサポート部門になるのが一般的です。彼らからすると、CRM導入は社長がトップダウンで決めた事項なので、その目的や思いは100%理解していない事が多いです。従って、CRMの導入が近くなると、利用者は「なぜCRMというものを使うの?」「これは何の役に立つの?」という疑問が出てきます。目的がよく理解できていないものを使うには抵抗があります。むしろ、また入力作業が増えるのかと思われる事さえあると思います。
そこでCRM導入のプロジェクト側は利用者にすり寄らなければならない。導入されなければ意味がないのですから。利用者の抵抗感を減らす為に、今やっている業務を出来るだけそのまま変えずに、それを新しく導入するCRMで実施出来るようにしてしまうのです。利用者には「今までの業務と分かりません。入力するツールが変わるだけですから」とやってしまいがちです。
そうして、CRMが導入されます。この時点では今までやっていた顧客管理業務のツールの置き換えにすぎません。社長はCRMが導入されたと報告を受けます。しかし、成果が出ない。なぜなら、社長の意思を反映したCRMの導入は行われていないからです。CRM導入の一周目が完了です。
二周目は利用者からの不満への対応だ。ツールが変わるので、利用者は色々と要望を上げてくる。新しいツールなので、どうしても今までやり方と事なる部分が出てくる。利用者がそれを少しでも使い勝手よくしたいので、IT部門に要望を上げます。
この要望は利用者の視点の要望だ。入力の手間を削減したり、入力項目の追加等が要望される。IT部門としても、ユーザーがツールを使ってくれないと困るので、対応する。しかし、これらの要望は依然として、社長がCRM導入時に思っていた姿に近づく為の要望ではない。
利用者の要望が一通り終わると、CRMツールの利用も安定化している様にみえる。社長には、全員がCRMツールを毎日使っていますと報告されるだろう。しかし、それは今までの顧客管理のやり方を別ツールに置き換え、一度は使い勝手が下がった状態から、以前の使い勝手の状態に戻しただけの状態だ。現場の利用者からみると、CRM導入前を100点とすると、一度、ツールの置き換えで使い勝手が50点に下がったものを、以前の様に100点に戻しただけのようなものだ。このようにして、CRM導入の二周目が完了する。
ここからようやく三周目の開始だ。ここでやっとCRMとは何かをIT部門や営業部門の責任者が考える様になる。そして、あるべきCRMの姿にすべくようやく業務改革に着手するのである。
纏めると以下の様になります。
1.CRM導入をトップダウンで決める。これは自社の顧客とのやり取りの考え方を一新する、業務プロセス自体を変える改革レベルの事項である。
2.導入プロジェクトはCRM導入を行う。しかし、プロジェクト側の人間も利用者側の人間も社長の意図は100%理解していない事が多い。従って、CRMを導入する事自体が目的化する。
3.利用者にCRMに抵抗なく使ってもらう為に、現状業務をそのまま実施できるようにして、CRMを導入する。ツールの置き換えの完了だ。一周目の完了だ。
4.ツールの磨き上げを行う。利用者はツールの置き換えで使い勝手が下がった状態を、以前と同じレベルに戻そうとする。IT部門もそれに対応する。これにて、以前の業務フローが新CRMツールで効率的に行える状況に戻る。二周目の完了だ。
5.多くの費用と時間を使って、ツールを置き換えて、以前の業務の再現を行っているだけの状況では?と経営者や営業責任者が気づきだす。ようやく本来のCRM導入を再度実行しようとする。三周目の開始です。
一周目が一年目、二周目が人年目、そして、三周目が三年目という感じになるのが多いのではないでしょうか。
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