武藤敬司の引退に想う

武藤の引退試合を見ました。子供の頃、プロレスラーは40代で引退していた印象です。武藤は60歳での引退なので、随分、働ける期間が増えたものです。

武藤はなぜ60歳まで働く事が出来たのか考えてみたい。プロレスラーだろうが、一般的な会社員だろうが、相手から求められなければ、働きようがない。会社員であれば、世の中の会社から求められなければ、働く事が出来ない。過去、人間は集団で狩りと木のみなどの採集をしていた。狩りや採集という役割がどの集団でも求められたと思う。暫くすると、農業がおこなわれるようになった。米作りが日本に伝わり、定期的に定量的に米が収穫できるようになった。狩りや採集が全く不要になった訳ではないと思うが、狩猟や木の実の採集に出かける役割は減ったはずだ。更に時代が進み、蒸気機関が発明され、産業革命が行った。人間や牛や馬が動力源になって、汗水垂らして労働していたものは、機械の動力に置き換わった。そこからコンピューターが発達して、算盤で計算していたものは、電卓やコンピューターに置き換わった。技術の革新が起きると、それを担っていた役割の人は需要が蒸発する。今は、ChatGPTがかなり優秀な秘書となっている。殆ど何でも答えてくれるスーパー秘書だ。従来のコンピューターでは難しかったので人間がやっていた役割の中で、減少していくものが多くなるだろう。

プロレスラーを考えてみたい。日本でのプロレスの父と言えば、力道山だ。外国人とバッタバッタと空手チョップでなぎ倒す姿が日本国民を大いに喜ばせた。敗戦後の日本国民を大いに慰めて、熱狂させた。敗戦の影が消えた後、単純に日本人が外国人を倒すという構図から、日本人対決というやり方が始まった。肉体的な力があり、技と実力で相手を倒す強いレスラーが求められた。単純に空手チョップや殴る蹴る程度の技しかできないレスラーは求められなくなっただろう。暫くすると、初代タイガーマスクが登場した。体が特別大きい訳でも、怪力という訳でもない。しかし、圧倒的な身体能力で、空中殺法を駆使して、見るものを魅了した。技は非常に高度で、初代タイガーマスクと同じ技が出来るレスラーは殆ど居なかったと思う。タイガーマスク以前は、コーナートップに上ったら、ダイビングニーを落とす位だったと思うが、タイガーマスク以降は、ムーンサルト等、多彩な技が増えた。

タイガーマスクが比較的早く、プロレスを引退してしまう。この後は、格闘技的なスタイルを得意とするいわゆるU系レスラーが登場した。武藤はこのあたりでプロレスラーとしてデビューする。若いうちからムーンサルトや派手な技で観客を魅了した。90年代後半、格闘技がブームになった時、武藤はUインターの高田と戦った。勝った技は、足四の字である。足四の字はデストロイヤーの得意技だ。力道山の時代である。90年代、足四の字は必殺技の地位はなく、試合途中のつなぎ技だった。その昭和レトロなものを持ち出して、武藤は東京ドームで高田に勝利する。その後、武藤は足四の字を必殺技として使うようになり、他の選手もよく使うようになった。

その後、プロレス界は、単純に整理できない位、何でもありになった。デスマッチ系もあれば、お笑い系もありです。レスラーもレスリングを強みするものや、強烈な打撃を売りにするレスラー等、色々なレスラーがいる。女子プロレスラーも含めれば、多種多様だ。

武藤は、その後、膝がどんどん悪化した。膝を強打するムーンサルトは出来なくなった。足四の字も随分使い込んだ。驚いた事に、その悪くなった膝を相手の頭部にぶつけるシャイニングウィザードという技を開発して、決め技にした。

プロレス界も度々、変革が起きて、それにより人気が出たレスラーもいれば、それが出来なくて、地味なレスラーとしてなかなか人気が出ないレスラーもいる。人気のないレスラーは試合に出る機会も減る。淘汰される。武藤を見ていると、プロレス界の変革に飲まれて淘汰されるのではなく、自らが変革を起こしてきたともいえる。それにより60歳まで仕事が出来たのだろう。普通のレスラーは派手な技を新しく作り出そうとする。武藤が凄いと思ったのが、Uインターとの闘いで、ドラゴンスクリューと足四の字を再開発したこと事である。あの高田を破った技なので、それ以降、ドラゴンスクリューと足四の字は武藤の得意技の一つになった。その後はシャイニングウィザードを開発した。武藤は定期的に技を「自分の」ものにする。「自分のもの」になるという事は、それで仕事が出来るという事だ。観客は武藤に「その”武藤”の技」をやってほしいと無意識で期待する様になる。

どんな業界でも変革や変化が定期的に起こる。武藤は、自ら変革を起こす側になったり、自分が必要とされるように自分を常にアップデートし続けた人だと思いました。

最後までお読みいただきありがとうございました。